音楽科教育の基本的な考え方

 
             「手術は成功した。しかし患者は亡くなった。」
 
 「手術は成功した。しかし患者は亡くなった。」ショッキングな言葉で恐縮だが、歌や演奏の音楽的な完成度を高めようようちしても、その表現者たる子ども達が音楽を嫌い、意欲をなくしてしますような状況はないだろうか。

 元鳥取大学教授で『小学校学習指導要領解説音楽編』作成の主査を務めた川池聡先生は、山梨音楽授業研究会の講演において、音楽は好きだけれど学校の音楽は苦痛に感じている子どもの例を挙げて「音楽を見て、子どもを見ていない、このような授業はまだあるのではないか。これでは音楽教育を行なう資格はない。」と述べられた。
 
 練習を重ねて、ひたすらに音楽的な上達を目的とする授業、クラス発表会のための訓練になっている授業、歌やリコーダー。鍵盤ハーモニカが上手に吹けるかのテストを行い、「あなたは合格、あなたはダメ、家で練習してきなさい・・・。」これらはお稽古事としての音楽教室では行なわれることがあっても教科の本質をとらえた音楽科授業の姿ではないといえる。

 しかしまた一方では、ここ十数年ほど、学校現場での音楽教育が、それまでの教師による一斉教え込み敵な反省から「楽しい」音楽の授業をめざしてさまざまな実践が行なわれている。このこと辞退は望ましいことであるが、楽しさを追求するあまり、ただ歌ったり楽器を演奏したりする表面的な楽しさだけの活動も見る。

 音楽をつくって表現する題材において、音楽的に意味を持たない音を並べて楽しんだりと活動あって学習なし」いわれるような指導に陥っているケースも見られる。

 学校での音楽教育の目的は、言うまでもなく学習指導要領の目標に沿ってその内容を確実に子どもたちに身につけさせることであり、楽曲を間違えずに演奏させることことではない。教材よりもよりの内容を中心に指導計画を構成し、題材を設定してきくことが不可欠である。教材曲はあくまでならいを達成するための学習材なのである。


           先生も一緒に               これからどんなドラマが             分科会の様子


      
              
え! チャイコの第5番 を小学4年!?

 

      題材  「音楽の『決めて』を感じて取り、工夫して表現しよう」
           〜「聴く活動」により音楽的諸要素の違いによる曲想の変化を感じてとり、
            イメージに合った音楽になりように諸要素を工夫して表現する学習活動例〜

         教材   交響曲 第5番  (チャイコフスキー)

         実践校    山梨大学教育人間科学部付属小学校    
         授業者    深澤 啓太郎
         展開クラス  4年1組


      ◇ 授業の流れ
        ・”ザワワ〜ザワワ〜”の2部合唱で歌い始まる。
         全体を通しながら部分的にサライながら進めいく。今日は初めてアルトパートを歌う児童
          たくさんいる様子。不安定なところも先生の範唱を聴きながらきれいなハーモニーに仕上
         仕上がっていく。 児童による伴奏もけっして流暢とは言えないが、一人一人が自分なり
         の曲のイメージを大切にしやわらかなハーモニーを味わいながら表現している。

      ◇ いよいよ ”チャイコの5番”の鑑賞
        ”12月に「アルルの女」を聴いたね。今日はチョット難しいかもしれないけれど・・・。先生が
         とっても好きな曲なんだ。と話しながら冒頭の序章部をかける。 


     
  注意深く聴き入る             決めて=諸要素            ”このように進んでいるね”

   

       @第一楽章   序奏部(1〜37)を聴く
          

         ・黒板に主題の音進行を図で示す。
         ・児童 ”これなに・・・・・。”
       
       A再度 第一主題を聴く(黒板の図を指さしながら。 楽器名わかるかな・・・・。)
          
         ・こわい  ・落ち込んでいくような気分  ・しょんぼりした感じ ・泣いているよう
            
       B音や特徴をよく聴いて(更に、めあてをもって注意深く聴き入る)
          
         ・迫ってくるような音がした  ・弱い音がしていた ・ゆっくりした音楽tだった 
         ・低い音がした  ・ややなめらかな音  ・ジワっと広がっていく感じ

       C先生の質問
          ”一日の生活の中で、どんなときにかかるとピッタリだと思う?
       
       D第2楽章  Tempo precedente(♪=100)〜107を聴く
         
         突然の大迫力(特にティンパニーとトランペット)にビックリ。一瞬耳をふさぐこども。 
         先生は黒板の図を指差し、” 第一楽章のメロディーと似ているでしょう。”
         
         ・一楽章より明るい感じがした  ・激しい感じ ・余り明るい感じはしなかった
         ・平和な感じ  ・戦っているみたい  ・地震がきたみたい 
         ・自信がついてきた感じ

       E”もう一回聴いてみよう・・・。””音楽の特徴で気がついたことわ?・・・・・・・・。”
        
          ・でかい音  ・強い音  ・音が切れていた  ・ティンパニーの音がした 
          ・トランペットの音もした

       F 先生の質問
         ”一日の生活の中で、どんなときにかかるとピッタリだと思う?
       
       G 第3楽章  241〜266を聴く

      ”
何か 気がつくかな・・・・?。””チョット難しいかな・・・?。
          しばらくして先生が何気なく3拍子を振っている。
          
         ・そうだ3拍子だ ・低い音がしていた ・よわい音 ・木管楽器の音が
          3拍子の振りながら聴いている子ども達が次第に増えてきた。

       H ここで1・2・3楽章の特徴を[決め手」を整理し雑駁にまとめる。

       I 第4楽章  Andante maestoso(♪=80) 0〜47を聴く
         ・明るい感じ  ・大きな音  ・高いおとが響いていた  ・リズミカルな感じ   
         ・太鼓が響いていた  ・速い  ・低音楽器が鳴っていた  ・にぎやかな感じがした。
         ・拍手が入っていた(ライブ録音だからね) ・平和な感じ
 
       J 第1楽章〜第4楽章までの[決め手」をまとめる
    


  
 イメージを膨らませています           教科書と見比べて               できました

       K「オーラリー」の工夫
         ・前時の「オーラリー」を全員で合奏する。

        ・チャイコの5番で出し合った「決め手」を参考にしながら、グループでメロディーシート
         に主旋律に合うもう1つのメロディーをつっていく。
         ・メロディーシートはコードの中の音で工夫され、高い音から低い音にに配置され、階名は
         カタカナで書かれている。
        ・各グループで[決め手」を振り返りながら、工夫したものをメロディーシートにカラーペンで
         印をつけてもう1つのメロディーをつくっていく。
       
        ・"おはよう””おやすみ”にもいろんな表情があるね・・・・。といいながら「オーラリー」にも
         それぞれの「オーラリー」があるようね・・。どんな「オーラリー」になるのかな・・。
         ”楽しみだね・・・・。”と具体的に指導して回る。
        
        ・次第にイメージが膨らみまじめる。
        ・イメージをストーレートに表現する子。リズムに変化を加えるグループ。
         音の高さをかえてみる子。 テンポでもフレーズや全体について活発に!

       Lいよいよ発表
        ・Aグループ
          決め手   最後ははやくした  音も高くした  終わりは少しゆっくりした

        ・Bグループ
          決め手   最後はゆっくり  途中リズムを短く切った
      
        次から次と工夫したところ発表し演奏が続いていく。それに対して先生が「決め手」に関連
        させながらポイントを押さえていく。
 
   
    一杯の”気づき”カード         発表前の打ち合わせ            気持ちカード           
  
       M全員で「オーラリー」の合奏をする。

      
       N最後に参観者と対面して”青い この空の下 めぐる〜・・・・を歌う。
        柔らかく のびやかな歌声で、ゆったりとレガートな曲想表現が実に見事であった。
        子ども一人一人の表情は満足感に満たされた顔・顔・顔・・・。
        その姿は深澤先生オリジナルの「気持ちカード」にあった。

 



  気持ちカードのこと


   授業の終わりに、一人一人が”今日の授業が自分にとって有意義で充実した時間であったか”に
   ついてピンクボード(とっても充実していた)、イエローボード(普通)、ブルーボード(気持ちがのら
   なかった)。の三つのボードに自分の名前を張っていくもの。深澤先生は教師の評価になると話し
   ておられた。

 今回の授業から

   チャイコの5番!を先生が好きだからということだけででは・・・・。それは深澤先生の実践
   研究の中に読み取ることができた。
   「音楽的な感受の力」。つまり音楽を特徴づけているさまざまな要素を曲想として関連づけて
   感じ取らせことのできる力を身につけさせるための1つの実践例として大変興味があり勉強
   になったりました。子どもの気づきからも十分に納得できた素晴らしい授業と実践発表でした。
   マッターホルンを感じさせる、白くそそり立った南アルプスの駒ケ岳。タクシーの運転手さんが
   誇らしく説明してくれました。爽やかな気持ちで東京へ帰りました。

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授業研究会資料から
1 はじめに
 音楽っていいな、もっとやってみたいなという気持ちが高まっていく原動力は、子どもたち一人ひとりの中に音や音楽が意識化され、自分にとって価値のあるものと感じる驚きや感動の体験であろう。
 音楽を聴いてその意味やよさを深く感じ取った時、その音楽を自らのものにする力が生まれる。そして、自分の思いを音楽で表すことの喜びや、人に伝えられた時の心地良さを味わうことができる。このような経験を発展的に積み重ねていくことにより、生涯にわたって音楽に親しもうする態度が育まれ、やわらかな感性を持つた心豊な人間の育成に結びついていくものと考える。音楽の学習を通して、私たちは絶えず子どもたちの人間としてのせいちょうを目指していることを忘れないようおにしたい。
授業研究から         
         研究主題
       
表現する喜び・聴く喜びを味わう音楽科学習
                
                 実践校  山梨大学教育人間科学部付属小学校
                          深澤 啓太郎・内藤 千草

            
                 
平成16・17年度音楽教育推進協議会”関東甲信越21世紀の会”研究助成グループ
ジジからのメッセージ

今回は「関東甲信越21世紀の会」助成グループである「山梨音楽教育”音戯の会」のメンバーである山梨大学教育人間科学部 深澤啓太郎先生の授業研究会が3月1日(火)にありました。その後の研究協議会でも[音楽的な感受の力を育てる授業」について実践発表がありました。
深澤先生の深い研究実践に裏打ちされた豊富なアイデア等による意欲付けと温かいお人柄で楽しい授業が進められました。             豊富な資料については、機会をみて紹介します。